クリティカルパス法の限界と資源競合問題

目次

(1)プロジェクト管理を技術に変えたPERT法の開発
(2)資源競合問題を考えていないPERT法


(1)プロジェクトマネジメントを技術に変えたPERT法の開発
PERTはProgram Evaluation and Review Technique の略です。通常はPERT図と呼ぶことが多いようです。PERT法は、冷戦時代の米国において、ポラリス搭載原子力潜水艦の大量建造プロジェクトの日程計画を目的として開発されました。米国海軍の委託を受けて、ブーズ・アレン&ハミルトン社、ロッキード社が1958年にコンピュータを使ったプロジェクト日程計画ソフトウェアを共同開発しました。

PERTの開発にあたっては、第二次世界大戦において数学者や統計学者を動員してオペレーションズリサーチ(作戦研究)の成果を挙げたこともあり、プロジェクトの日程計画のスケジューリング・アルゴリズムの研究に数学者と統計学者が取り組みました。

日程計画のアルゴリズムの研究にあたっては、潜水艦を建造するための多数の作業工程が意味を持って複雑に繋がりあっている(連結している)点に着目し、数学の一分野であるグラフ理論を応用することにしました。

「つながり方」に着目して抽象化された「点とそれをむすぶ線」の概念がグラフであり、グラフが持つ様々な性質を探求するのがグラフ理論です。日程計画のように、つながり方だけではなく「どちらからどちらにつながっているか」を問題にする場合に、エッジに矢印をつけるグラフ(有向グラフ)を使います。

有向グラフで繋がり方を表現する手法として、下図のようなアローダイアグラムがあります。アローダイアグラムとは、○で表す結合点(イベント)を矢印(アクティビティ)で結んで表現します。


数学者たちは、作業工程の繋がりをコンピュータで処理できるようにするために、結合点(イベント:開始日と終了日を表す)を矢印(アクティビティ:実際の作業工程を表す)で結んだアローダイアグラムで表現しました。この結果、作業工程ごとの日数データを行列計算できるようにでき、プロジェクト全体の作業日数(リードタイム)計算を行い、工程間での待ち時間(フロート、余裕時間)がまったく無い工程の繋がり(パス、経路)を自動的に見つけるアルゴリズムを発見しました。待ち時間(フロート、余裕時間)がまったく無い工程の繋がり(パス、経路)をクリティカルパス(最長経路)と呼ぶことにしました。上図の赤い線がクリティカルパス(最長経路)を表しています。

しかしながら、当時のコンピュータの性能は今のパソコンよりも低かったため、アローダイアグラムの表現では当時のコンピュータが処理できるデータ構造にならないため(現在では可能)、下表のような表形式に変換することで逐次処理できるデータ構造にできるように考えました。この表形式のデータ構造は、現在の生産管理システム(BOM、MRPやERP)の基本ロジックとして使われています。タスクIDと先行タスクIDの関係が、アローダイアグラムの矢印を意味しています。


アローダイアグラムは数学者には適しますが、普通の人間でも使えるように、現在では下図のような
ネットワークダイアグラムが使われています。


工程の繋がり方(依存関係)には、作業を逐次に行なう「シリアル型依存関係」と作業を並行して行なう「パラレル型依存関係」の2種類があります。
@シリアル型依存関係


Aパラレル型依存関係


逐次に作業を行うよりも並行して作業を行う方が全体の所要時間が短くなりますので、日程計画を改善したい場合には並行してできる作業を探して同時に作業を行うように、日程計画を組み換えます。

PERT図の中で最も期間の長い経路(最長経路)をクリティカルパスと呼びますが、このクリティカルパス(最長経路)がプロジェクトの納期を決めます。したがって、クリティカルパスがプロジェクトの制約です。PERT法はクリティカルパス法とも呼ばれます。

TOPへ戻る


(2)資源競合問題を考えていないPERT法
PERT法では、コンピュータ処理が前提ですので、タスクID、先行タスクID、タスク期間(見積値)だけでクリティカルパス(最長経路)を計算し、クリティカルパスを最短になるようにプロジェクト管理者がシリアル型の工程の繋がりをパラレル型に変更してクリティカルパスを最短になるように組み替えていくことになります。

ところが、プロジェクトの実施段階では頻繁に問題が起こり、計画通りに進むことはまずありません。ある日突然、クリティカルパスが変わったという重大な問題が発生することもよく起こります。したがって、PERTで日程計画してもその通りには進まない現実に頻繁に直面しますので、最初から計画を緻密にたてることを諦めて、計画は目安と考えて現場で問題に対処しながら納期を何とか守るように努力するしかないと考えるプロジェクト管理者が大多数となりました。

TOC流プロジェクト管理(クリティカルチェーン法)を1994年に提唱したゴールドラット博士は、何故プロジェクトが計画通りに進まないかをTOC思考プロセス法を使って根本原因を探っていったところ、「資源の競合」という問題がこれらプロジェクト管理の問題の多くを引き起こす根本原因であることを発見しました。資源の競合とは、同時期に同一資源(技術者、設備機械、協力企業など)を複数のタスクあるいはプロジェクトが使おうとして奪い合いになることです。つまり、資源競合問題とは、プロジェクトで計画した開始日に予定していた資源が他に使われてしまっており、計画通りに開始できないという問題です。

資源競合問題を発生させる原因は「資源を使うための優先順位が不明確である」ためです。つまり方針制約です。プロジェクトのボトルネックは競合する資源となります。資源競合問題がない時は、クリティカルチェーンはクリティカルパスと同じになります。資源競合問題は「単一プロジェクト内の資源競合」と「複数プロジェクト間の資源競合」で性質が異なりますことに注意する必要があります。

資源競合の状態になりますと、その資源を使う工程間で「工程間の従属性メカニズム」が発生します。その結果、ぞの資源はマルチタスクの状態に陥ります。これが「クリティカルパスが途中で変化してしまう現象」を発生させます。また、バッファー管理が不能になります。それらの結果、プロジェクトの大幅遅延を引き起こしてしまいます。

TOCプロジェクト管理では、日程計画の段階で、資源競合問題が発生してクリティカルパス上のタスクの遅れを発生させないようにクリティカルパスの一部を修正します。この修正したパスをクリティカルチェーンと呼びます。

プロジェクト遅延の根本原因は資源競合問題と優先順位不在

TOPへ戻る

ホームページに戻る