米国製造業を復活させたTOC(制約理論)とは


2000年のある日、米国から来た1通の電子メールが大きな衝撃を与えました。IT(情報技術)を活用して製品開発プロセスを大胆に変革し、製品開発期間を1/20にした事例が多数公表されたという内容でした。これが引き金となって、設計開発を中心としたものづくりプロセス改革をテーマとした著書「プロセスチェーンマネジメント」(工業調査会)でも紹介した米国再生の秘密「TOC(制約理論)」の研究と日本での普及活動に熱中することとなりました。
以下にTOC(制約理論)を活用した設計・生産のものづくり工数を半減し、同時に利益を倍増させる方法論を紹介します。


目次

(1)米国発「設計時間1/20」の衝撃
(2)15ドルの本と40万ドルの生産管理ソフト
(3)革新的なTOCプロジェクト管理手法
(4)TOCの参考資料

(1)米国発「設計時間1/20」の衝撃
米国では1991年の湾岸戦争が直接的な動機となり、国防総省主導で「21世紀国防製造計画」が産学官共同で開始されました。この結果、「コンカレントエンジニアリング」「プロセスチェーンマネジメンット」等を製造業が導入し、今日のTOC(制約理論)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、BTO(受注即応生産)等へ発展しています。現在では、製造現場の製造技術、技能者のレベルは日本がまだ優位であるが、製品開発力、生産技術力、工場単位の生産管理力等の高度な経営能力は日本を圧倒したと考え、市場競争力のさらなる強化のために多額のIT投資を続けています。  

公開されている60以上の事例の中でプリント基板設計・製造の事例としてボーイング社プリント基板センター(1998年公表)を紹介します。同センターでは年間40,000種のプリント基板を設計・製造していますが「納期厳守率は60〜65%」、「不良(スクラップ)率は約35%」、「旧式のプロセス技術」、「常時督促を受けてホットな状態」等の問題を抱えていました。幸い、増産能力はあり、プロセス技術更新を許可されたため、TOC(制約理論)の改善手法を使って改善の手を打っていきました。3年後には「スクラップ率は35%から3%へ激減」、「リードタイムは75%削減」、「スループットが100%以上増加」、「高品質な製品の納期遵守率が顕著に改善」等のような大きな成果を達成しました。  

また、半導体業界ではハリス社半導体工場建設(1999年公表)がプロジェクト管理の成功事例として大きく紹介されています。世界初の8インチ・ウェハー製造工場の建設プロジェクト(投資金額:2.5億ドル)にTOCプロジェクト管理手法を活用し、プロジェクトのキックオフから量産した製品の販売までの期間が13ケ月間(業界常識は約54ケ月間)の短期間で達成しました。ソフト開発プロジェクトの期間短縮事例も多く報告されています。

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(2)15ドルの本と40万ドルの生産管理ソフトウェア
全世界で技術者を対象に250万部も読まれている超ベストセラーの小説「ザ・ゴール」(1984年)があります。残念ながら日本語訳は長い間拒絶されているため日本では知られていませんでしたが、やっと2001年に翻訳されて日本でも知られるようになりました。

この物語の主人公アレックスは、ユニコ社の工場長に最近抜擢され、3ケ月で業績を立て直せなければ工場は閉鎖、従業員は全員レイオフという本社からの通告を受け、悪戦苦闘の毎日を過ごしています。業績悪化の原因は日系企業にシェアを奪われているためです。物語は、重要な顧客への納期遅れの問題が発生し、なんとか乗り切る場面から始まります。アレックスは、「私の工場は技術もある。新鋭ロボットも多数ある。最新のコンピュータもある。しかし何かが悪い。その何かが分からない。」と日夜悩んでいます。仕事の悩みに加えて、米国の物語らしく、残業続きの夫に不満の妻の家出という家庭の悩みも絡み合って、物語は進んでいきます...。  

著者のゴールドラット博士は40万ドルもする生産管理ソフトを開発して成功した物理学者ですが、ソフトの解説のために出版した「ザ・ゴール」がベストセラーになり、しかも多数の読者からソフトを使わずに同等の効果をあげたとの反響を受けてコンサルタントに転進しました。米国・欧州・アジアの製造業(最近では日本も含む)や連邦政府等へ大きな影響を与えています。

TOC流生産管理(DBRドラム・バッファ・ロープ法)とMRP、JITの違い

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(3)革新的なTOC流プロジェクト管理
現在の多品種開発・少量生産では、仕様説明、要員教育、設計検証、会議等と技術者のオーバーヘッド時間が増大し、純開発時間は25%程度しか取れません。さらに、分業下で技術者はマルチタスク(複数の開発案件を同時に抱える)の多忙な状態が常態となるために「学生症候群」にかかり、納期直前まで他の作業を行っています。また、予定よりも早く仕事を終えても上司からは評価されず(早く終ると逆に計画能力が無いと叱責される)、納期まで抱える傾向にあり、結局、「遅延だけが後へ伝えられる」現象を生んでいます。このため、開発プロジェクトは必ず納期遅れになります。

従来からのPERT(クリティカルパス法)に代る革新的なプロジェクト管理手法が「TOCクリティカルチェーン法」で、半導体工場建設やソフト開発のプロジェクト管理に効果をあげています。これらの事例で使われたProchainというパソコン用ソフトはマイクロソフト社の日程計画ソフトMS-Projectと組み合わせて使うクリティカルチェーン管理ソフトです。

TOC流のプロジェクト管理は、次の4ステップで進めます。
ステップ1:プロジェクトの中のクリティカルチェーンを発見します。
ステップ2:担当者の申告する作業期間見積りの分布はベータ分布関数で近似されますので、担当者の見積から安全余裕で見込む期間を各自の作業計画から剥ぎ取り、プロジェクト管理者がバッファーとして集中管理します。
ステップ3:担当者はシングルタスクとし、来た仕事を行い、終れば直ちに次の担当者へまわします。
ステップ4:プロジェクト管理者は個々の担当者の繁忙は管理しません。担当者へは納期や期間を知らせません。TOC流のプロジェクト管理ではクリティカルチェーン上の遅延日数は全体の安全余裕期間から差し引いていき、管理者はこの残りだけに注意していればよくなります。クリティカルチェーン以外の作業の遅延は影響がないため管理しません。

従来の常識に反する方法に見えますが、シングルタスクの効果、オーバーヘッド時間削減の効果や、全体の20%程度のクリティカルチェーンの工程管理だけですむ効果を考えれば、設備投資の不要なTOCプロジェクト管理手法は採用の価値があります。

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(4)TOC(制約理論)の参考資料
資料1:TOC流製品開発法 (PDF file)
中小企業診断協会SCMビジネスモデル研究会講演資料(2001年4月28日)

資料2:TOC流営業強化法
中小企業診断協会SCMビジネスモデル研究会講演資料(2002年1月26日)


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